聖マリアンナ医大病院の精神保健指定医資格の不正取得問題についての説明会

平成27年になって、聖マリアンナ医科大学病院(以下「同病院」)にて精神保健指定医(以下「指定医」)資格の不正取得問題が発覚しました。同病院は川崎市宮前区に所在し、当会の多くの会員が利用する精神病床を有する基幹的な総合病院です。
その病院で、このような問題が発生したのは由々しきことです。
そもそも指定医とは、精神障がい者の入院や行動制限を判定できる権限を有する、法律に基づく審査を経て指定される医師です。
その資格の不正取得事案は、精神障がい者の人権をないがしろにした、極めて遺憾な出来事と言わなくてはなりません。
他方、当会会員は、精神科医療の利用者として、同病院が一日も早く信頼を回復し、従前同様に安心して医療が受けられる状況に復帰することを望んでおり、川崎市(以下「市」)及び同病院に対して、早急かつ適切な対応を求めています。
つ いては、会員の中から、当該事案を憂えると共に、その経過や調査結果、地域精神科医療体制の確保等について状況説明を求める声が出てきましたので、当会 は、それに応えて市に対してその事実関係と今後の対応振りについて、状況説明を求める申し入れをいたしました(6月6日付、市精神保健課長あて、「聖マリ アンナ医大病院に関する精神保健指定医不正取得問題の経緯及び今後の対応に関する状況説明のお願い」文書を送付)。
早速、市健康福祉局障害保健福 祉部精神保健課の協力を得て、7月21日に説明会を開催し、本事案の経過及び対応について、同課から説明を受けることとなりました。説明会には当会会員の ほか、多摩・麻生区の地活などからも関係者が出席され、本事案の関心の高さを示していました。市から経過の概略について、以下のとおり説明されました。

・ 2月13日、厚労省から市へ、同病院の指定医申請に不正の疑義があるため、事実確認のための資料提出の協力依頼があり、市は直ちに同病院に対して事実確認の資料提出を求めました。
・ さらに厚労省から市へ、同病院からの報告書及び診療録に基づく事実確認及び該当医師に対する聴聞の実施についての通知が発効されたので、市は3月24日、 同病院へ立入検査を実施し、行政指定医(市所属)による診療録等の確認及び入院患者の診察、診療内容や処遇の点検を行うと共に、同病院に対し、市民への診 療等に影響がないように診療体制の確保を求めました。
・ その後、厚労省は、4月15日に医道審議会精神保健指定医資格審査部会を開催し、同病院に勤務していた指定医20名に対して、指定医資格の取消処分を決定し、同日、その旨を公表しました。
・ さらに、6月17日にも、厚労省は同審査部会を開催し、新たに医師3名の指定医取消処分を決定し、既処分を加えて処分該当医師は計23名となりました。

次に、市の対応項目及びその対応状況の概略について、以下のとおり説明されました。
・ 市内の精神科救急医療の維持について
同病院が、取消処分以降、救急医療のための指定医派遣や措置入院の受入れを実施していない状況について、神奈川県・横浜市・相模原市の精神科救急医療所管 課への説明と県下の救急医療体制確保の協力要請をすると共に、神奈川県精神科病院協会を通じて、県内精神科病院に対し、精神科救急患者の受入れ、指定医派 遣についての協力依頼を行い、県下の精神科救急医療の維持に対処している。
・ 市内の診療提供体制の確保について
同病院では処分該当医師による診察の自粛により、診療体制を縮小しており、一定期間、川崎市医師会及び神奈川県精神科病院協会、川崎市精神科医会等の関係団体に対し、受診希望者の受入れを協力依頼している。
・ 処分該当医師が行った精神保健診療の妥当性の確認結果について
処分該当医師20名の指定医のうち、12名が過去5年間に措置入院等の要否判定に係る診察42件に関与していたことから、その診察の妥当性について、市精 神保健福祉センター及び市精神保健課職員3名の立会いの下で、市所属の行政指定医2名及び非常勤指定医2名により確認を行った。
確認の方法は処分該当医師作成の診断書等全件を確認し、その結果、42件に係る医療行為や診療内容については法の基準に基づき妥当な判定であったことが確認された。
なお、6月19日付で追加取消処分を受けた医師3名が判定に関与した診察についても、引き続き、その妥当性について確認を行う予定である。
・ その他
今後、同様の事案が再発しないよう、指定医が担っている役割や指導医の役割等について、院内で周知徹底を図るよう、市内精神科病院に通知をすると共に、処 分該当医師による入院患者の行動制限の判断についても、市内精神科病院への定期的な実地指導の折に診療録の確認を予定している。
以上、市からの 説明の後、引き続き質疑応答が行われ、指定医審査のあり方、処分該当医師のその後の診察行為、同病院の精神科診療体制の状況、市内の他精神科病院の協力対 応と他病院診療への影響等について質問が出されました。それらに対し市担当課から丁寧な追加説明がなされ、指定医の役割と重要性についての理解が深まった 説明会となりました。
なお、その後の報道によれば、8月6日に、同病院は、神経精神科部長・教授を諭旨退職とすると共に、処分該当医師26名の うち、退職した11名を除く15名を対象に、休職や戒告等の学内処分を決定しています。部長・教授は直接関与していないが、監督責任を問われたものです。
指定医は、精神保健福祉法上、措置入院や医療保護入院などの、患者の入院や身体的拘束を含む行動制限を行うことが許される資格を有する医師です。厳しい資 格審査を経てはじめて取得できるもので、この法律に規定された指定医制度により精神障がい者の人権が守られていると言えます。今回のような資格不正取得事 案が二度と起こらないように厳正な資格審査が行われると共に、医療機関や精神科医自らが、指定医の担っている役割の重要性について認識をさらに深め、周知 徹底が図られることを求めます。